第52話    釣りと東風(だし)   平成15年10月21日  

庄内の釣り人は東風をダシの風と云って嫌う。

庄内は日本海に面しているから、所謂陸から吹く東風をダシ風と云っている。ダシの風が吹くと魚が釣れないと云うのである。原因は何故かと問われると自分にも分らないが、昔から釣り人に経験的にその様に云われているからとしか云えない。

まだ、自分が東京に居た頃の関東では陸から吹く西風は、濁りが出ると云って、黒鯛を狙う人は好んだ。日本海では、陸風が吹くと逆に水が澄み過ぎる傾向が強い。

特に陸地の近くでは底が丸見えとなり、魚から陸にいる人間どもが丸見え状態で、警戒して餌を食わなくなるからではないかとも考えられる。しかし、強いダシの風の日でも沖の方は結構荒れる事がある。そんな荒れた沖では魚の食いが良さそうなものであるが、沖でも余り漁が無いと云われている。

初夏から秋にかけての北東風、北東北の風は特に太平洋側ではヤマセと云い、オホーツク海高気圧が南下し、冷たい空気を運んでくる。青森、岩手、宮城ではヤマセが吹くと決まって冷害に見舞われる。山脈を超えた庄内でも初夏から夏にかけて吹く強いヤマセの年は折角植えた水稲の苗が枯れたり、8月初旬の出穂期に吹かれると実がならない物が出てくる等の影響が出てくる。水温の急激な低下が原因で魚の食欲が低下するのかも知れないし、岸側のプランクトンの生育にも影響が出て来る事からいつも釣れる魚が釣れる時期が遅くなる事もある。同じ水温の低下でもじっくりと下がってくる時期(11月後半から)の寒クロと云われる黒鯛の食欲は結構旺盛であるのだが・・。やはり暖かい時は暖かく、暑い時は暑くなければならないのだと思う。その様な季節の移り変わりに日本の動植物も順応しているのだ。

今年は東風の日が例年に増して多い。特に今年は6月から東風が吹く日が多く黒鯛の孵化の時期の水温の低下は黒鯛の孵化率を下げたようだ。その結果、今年は黒鯛の稚魚がまるっきり少ない。また、ヤマセの吹く日が多かった今年の稲作は太平洋側を中心に冷害だという。いつもの年より魚も同様にあまり釣れていない。これも冷害のせいなのか。庄内に吹く東風は色々な影響をもたらす。。特に釣り人は東風を嫌う。

とにかくはっきりとした理屈は分らないけれど、釣り人はダシの風は釣れない事になっている。